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イギリスの木簡学者

「墨書のある木片」というのが木簡の定義。

「木」に文字を書く、というのがミソで、そこに木簡学の面白さがある。古代史とか日本史といった、枠を超える広がりがある。

以前、イギリスの学者に、木簡を見せたことがある。

木に文字を書く、というのは何も日本や東アジアの専売特許ではなく、かのローマ帝国でも広く行われていた。

ローマの木簡をあちらでは「ローマン・タブレット」と呼ぶらしいが、彼はそのローマン・タブレットの専門家であった。

ローマン・タブレットには大きく二つのタイプがある。
一つは、木の板を彫りくぼめてロウを流し込み、ロウに字を刻む、というものだ。

ローマンタブレット

※ローマ木簡の模型 黄色い部分がロウ。

これは二枚一組で用いられる。

縦長の長辺同士をひもでくくって、文字を書く面(つまりロウが流し込んである面)同士を内側にしてとじるから、ちょうど脳のトレーニングなどで名を馳せる某社のポータブルゲーム機の元祖みたいな形をしている。

ローマンタブレットには、専用の釘みたいなもので文字を書き、文字をかくのと反対側で文字が消せる、というのだが、これもなにやらよく似ていて、念のいったことである。

このタイプは、ローマ帝国内で広く利用され、ローマ帝国の版図内各地から出土する。

もう一つは、木の板にインクで文字を書くもの。手紙など幅広い用途があるらしい。横書きだから、長い文章を書くときは下に別の木をつなげていく。

主としてローマ帝国の北の最前線・イギリスで出土するという。

ヴィンドランダというところから出土したものが特に有名だ。

くだんの学者はイギリス人だから、後者のローマン・タブレットの専門家である。

私は、必ずしも英語に堪能ではないのだが、現物の木簡を前にすると、互いに意志が通じる。

出土時の取り上げ方や記録の取り方から、

整理・保管の方法、

観察方法や文字をどのように読んでいくか、

さらには木簡(タブレット)の作られ方や加工方法、文字の書き方といったことまで、

「木簡(タブレット)学」の仲間(といってもあちらはだいぶ偉い学者なのだが)という感じで、大いに盛り上がった。

そういえば、このあいだポンペイ(イタリア)に出張したときも、「そうか、お前はタブレットか」と、

ローマン・タブレット(2枚組の方)を見せてくれたり、よくしてくれたなあ。

「木簡学は海を越える」「タブレット屋に国境なし」といったところだろうか。

(馬場基)